株式会社 アプレ コミュニケーションズ

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2021/03/31 更新

[第3回]音楽。人生を後押しし、つながりを実感させるもの

─満開の桜の中で、喜び半分・寂しさ半分の卒業式─

 昨年同様、今年の桜は平年より早く開花しました。都内では満開を迎えている所も多く、着物や袴、スーツ姿の卒業生たちの旅立ちに彩りを与えています。
 一方、緊急事態宣言が解除されたとはいえ、新型コロナ感染症が収束しない中での卒業式は、必ずしも晴れやかな舞台にはなりませんでした。卒業パーティーや卒業旅行もままならず、自粛の中で新たな門出の時を迎えなければならなかった卒業生たちの心象風景を想像すると、いたたまれない気持ちになります。

─厳しさや寂しさを支援する音楽の輪─

 もっとも、厳しい状況、寂しい状況に追い込まれた時には必ず、それを支え、励まそうとする存在が顕在化します。コロナ禍で懸命に働く医療労働者、エッセンシャルワーカーに対しては、理不尽な差別的な言葉を投げつける人もいましたが、一方でさまざまな手段で感謝や励ましのメッセージを送り続けた人たちもいました。そして、コロナ禍の中で卒業式を迎えた子どもたち・学生に対しても、厳しい状況を反転させるメッセージを送る存在があります。その1つが音楽です。

〔東京音大の学生たちが子どもたちの卒業式に音楽をプレゼント〕
 「コロナ禍の卒業式は、歌のない卒業式になる可能性がある」。そう感じた東京音楽大学の教員・学生たちが、「みんなで卒業式~輝ける君の未来へ贈る~」と題したライブを実施、その内容をYou Tubeでアーカイブ配信しました。
 曲目は、「春に」「大切なもの」「花は咲く」「仰げば尊し」「さくら」「旅立ちの日に」といった卒業式ソング。中には、東日本大震災で甚大な被害を受けた福島県南相馬市立小高中学校平成24年卒業生が作詞した「群青」も含まれています。
 プロジェクトの目的は、「歌のない卒業式」を迎える全国の子どもたちに音楽を届けること、そして東日本大震災から10年を迎えた年にあらためて3・11の思いを新たにし、音楽を通して被災地と全国の児童・生徒たちをつなぐことでした。同時に、新型コロナ感染症によって演奏の機会が大幅に減少した学生、とくに卒業を迎える4年生に対しても、貴重な演奏の場が提供されたといえるでしょう。

〔沖縄のアーティストも高校生3年生にオリジナルソングを〕
 沖縄県でも、素敵な動きがありました。沖縄出身のアーティストたちが新型コロナ感染症の影響で多くの学校行事が中止になった高校3年生向けに、オリジナルソングを届ける取り組みを行ったのです。
 もちろん卒業生は、高校3年生ばかりでありません。小学6年生、中学3年生も存在するわけですが、高校3年生は特別な存在です。なぜならば、高校卒業後の進路がまちまちで、大学等に進学する人もいれば就職する人もいる。中には地元を離れる人もいるでしょう。そんな進路が分かれる高校3年生にとって、最後の1年間は貴重な時間であり、修学旅行や文化祭は友人たちとの関係を深める大切な場だといえます。
 今回の取り組みは、そうした場を奪われた高校3年生が一歩踏み出すために企画された音楽イベントで、県立高校の卒業生に合わせて3月1日からYou Tube配信されました。ちなみに参加したアーティストは、BEGIN の島袋優さん、MONGOL800 のキヨサクさん、かりゆし58の前川真悟さんなどのミュージシャンに加えて、俳優の満島ひかりさんなどの豪華な顔ぶれ。オーディションに合格した高校3年生10人も、楽曲で使用するハンドクラップのメンバーとして加わることになりました。

─音楽は人をつなげ、生きることを後押ししてくれる─

 音楽は有史以前から、人間の営みとともにありました。その時々の喜怒哀楽を音楽に託してきたのが人間であり、今もなお、多くの人々が多様な手段・デバイスで音楽を暮らしの中に採り入れています。
 先にあげた取り組みは、人々の暮らしに密着した存在である音楽を活用し、コロナ禍によって人とのつながりが奪われたり、大切な体験を奪われたりした人を支援する取り組みです。プロ、アマチュアを問わず、コロナ禍によって今、多くのミュージシャン自身が逆境に立たされています。それにもかかわらず支援活動に携わったのは、音楽というものが、人と人とをつなぎ、生きることを後押ししてくれる存在であることを、ミュージシャン自身が一番わかっているからだと思います。

─音楽と個人的なつながりも─

 実は私も、音楽とは深い関わりを持ってきました。小学校3年生の時に、父親が趣味で奏でていたギターの音色に魅せられ、見様見真似でギターを爪弾き始めたのが最初。その後、中学・高校時代には、思春期特有の抑えきれない思いや感情をギターや歌で昇華させていたように思いますし、大学時代はギターを持ってキャンパスを歩くことが日常でした。
 社会人になるとさすがに仕事が忙しく、ギターを弾いて歌を歌う時間がとりにくくなりました。大学生の頃から普及し始めたカラオケで歌を歌ったり、ギターが置いてあるお店で何曲か弾かせてもらったりといった程度になったのですが、そんな私に転機が訪れます。東日本大震災です。

 震災当時、私は「41会」という労働組合の機関紙担当者の集まりに参加していました。「41会」とは、4カ月に1度集まって学習会を開催する会の名称ですが(メンバーがお酒好きなので41会=酔い会と言われることが多かったのですが…)、もう1つ、少しは世の中のために「良い」ことをしたいという思いも共有していました。そして東日本大震災に対しても、「音楽で何かできることがあるのではないか」との声が上がり、音楽好きなメンバーが集まって「IKS41」というバンドを結成することになりました(IKSは、バンドのメンバーのイニシャルからとったものです)。
 バンドは今、メンバーの1人が住む国分寺市の光公民館が年2回開催する「PIKA☆ROCK」を中心にステージに上がっています。コロナ禍に見舞われた今年も、3月13日に完全無観客のライブを実施、You Tubeでアーカイブ配信しました。

─音楽を受け取る側だけでとなく、発信側も豊かになれる─

 仕事が忙しく、最初は「バンド活動なんて、ライブ活動なんて」と思って始めた音楽活動でしたが、気がついたら10年の歳月が流れました。私はもともとフォークやバラード系の楽曲が好きだったため、ロックやポップス主体のIKSの活動とは別に、弾き語りやピアノと歌を組み合わせたライブも開催してきました。入場料という形で被災地・被災者向けの寄付金を募り、今では少なからず、ライブの開催を楽しみにしてくれる人もいます。中には「元気をもらった」「癒された」と言ってくださる方もいますが(上手かったとはなかなか言ってもらえませんが…)、そうした言葉をいただく度に、音楽は聴く側だけでなく、表現する側の人生も豊かにしてくれるものなのだと感じます。

 コロナ禍で、働くだけでも困難が伴う時代です。人とつながりたくてもつながれない人も多いと思います。しかし、音楽に限らず、自らが何かを表現し、発信することで、他の誰かを応援できることがあるかもしれません。また厳しい状況に置かれているからこそ、何か人のために動いてみることで、自分自身の状況を変えるきっかけが生まれるかもしれません。「自他」という言葉がありますが、今自分ができることで他者と関わり、他者のためにできることを実践することで、他者がけでなく自分自身も元気になれる、そんな「自他の精神」を思い起こしてみることも必要ではないでしょうか。

 ちなみに2021年は、私にとっての節目の年。4月6日には会社創立30周年、そして音楽活動も10年の歳月を数えます。2019年11月以来、ワンマンライブを開催できていませんが、今秋、コロナの感染が収まっていれば再開し、東日本大震災とともにコロナ禍で厳しい状況にある人々とのつながりを感じられるイベントにできたらと考えています。