株式会社 アプレ コミュニケーションズ

NEXT Business & NEXT Persons
2021/06/11 更新

[第4回]食&酒。仕事と暮らしを伴走し続けてくれた存在

─コロナ禍で厳しさが増す飲食店。理不尽な感染症対策─

 コロナ禍で今、多くの飲食店が窮地に立たされています。昨年は、「歌舞伎町」「夜の街」という表現で感染源としてのレッテルを貼られ、緊急事態宣言が長期化する今日では営業時間短縮や休業要請の対象となる業態・エリアが拡大。21時、22時までの時短要請は20時迄に変更され、お酒を主体にした店は休業要請、営業する場合もアルコールの提供自粛が求められるという事態を迎えています。
 たしかに、お酒を飲めば大声が出やすくなります。喧々諤々と議論をすることもありますし、2次会で歌を歌えば飛沫が飛び交う頻度が増えることは容易に想像できます。だからこそ、多くの飲食店が政府や自治体の要請に従い、やむなく休業、時短を受入れ、アルコールの提供も我慢しながら営業をしています。
 しかし、こうした状況が長期化すると、経営的にたち行かなくなるお店が増えていきます。「助成金をもらうことで、営業している時より得をしている」といった声も聞かれますが、助成金が支給されるのは申請してから数カ月後。“日銭商売”と言われる飲食業が耐えられるはずがありません。そしてその一方で、オリンピックは何が何でも開催するとし、人流が増えることが明らかな観客を入れての開催やパブリックビューイングまでも推進しようという状況を目にすると、なんともやるせない気持ちになります。
 政府・自治体の感染症対策については、従来からさまざまな指定がなされていますが、飲食業とオリンピックに関する対応の違いはあまりにも理不尽ですし、ご都合主義と言わざるをえません。特定の人・層に責任を押しつけ、特定の人・層の利益だけは何がなんでも守ろうとする政府の姿勢は、法の下の平等を掲げる法治国家ではあってはならないこと。営業を制限するのであれば、補償を迅速に行うべきです。

─「仕事」が表舞台なら、「飲食」は学び・成長する場─

 私が飲食業の現状に心を痛めるのは、飲食の場が私という人間を形成する上で大きな位置を占めてきたからです。私は単純に、食べることも飲むことも好きですし、飲食の場で語り合ったり、飲食とともに音楽を楽しむことも大好きな人間です。
 たとえば、会社を設立したばかりの頃、飲食の場は明日へ希望を持つための必須でした。
設立当時は顧客も少なく、1年の半分は仕事をし、残りの半分は社内研修に充てることが日常。仕事がある時は、何がなんでもやり遂げるべく作業が深夜に及び、その後で社員と事務所近くの居酒屋に行っては仕事の疲れを癒し、明日の鋭気を養いました。また、仕事がなく社内研修ばかりが続いた時には、会社の先行き不安ばかりが募りましたが、社員と飲食を共にし、明日を夢見ることで、挫けない心を養ってきたように思います。
 顧客や取引先との会食も、大切な時間の一つでした。会食の形は人それぞれで、楽しく交流する場を設け、人間関係を構築することで次の仕事に活かしていこうと考える人もいれば、昼間の時間では詰め切れなかった事柄を、会食の場で詰める形で会食される人もいます。私の場合、そうした会食以上に多かったのが、「あるべき姿」を語り合う場としての会食。話す場所を変えることで、通常の仕事関係とは異なる切り口から、仕事やお互いの未来について語り合うような会食の場を多く経験してきたように思います。
 もちろん、年がら年中小難しい話をしているわけではありません。時には軽口をたたくこともありますし、流行りの音楽やスポーツの話題で盛り上がることもあります。しかし不思議と本題は仕事や生き方の話しに戻ってくる。それも、目の前の仕事の対応を打ち合わせるのではなく、「今抱えている仕事は本来、どうあるべきなのだろう」「顧客に対してどのように向き合い、何を提案すべきなのだろう」という話題に重点を置いた話が中心でした。また、お互いをよく理解し合っている相手であれば、率直に互いの問題点を指摘し合い、将来のあるべき姿を率直に話すことで切磋琢磨した関係を構築してきました(時には、一晩の会食では終わらず、泊まりがけで話す機会を設けたことも。まるで“合宿”ですね/笑)。

 オンとオフ。仕事は基本的にオンタイム、表舞台で行うものですが、私の場合、オンとオフは切り換えるものではなく、重なり合うもの。オフタイムで話したことがオンタイムの成果につながることが少なくありませんでしたし、オンタイムで本気で関わっているからこそ、オフタイムの会話も充実したものになったように思います。その意味で飲食の場は、私自身が成長するための場であり、会食を共にしてくださった一人ひとりに、そして
そうした場を提供してくれたお店にお礼を言いたいと思います。

─社員との会食。社員の夢や思いを受け止める場でありたい─

 コロナ禍で実施が困難になっていますが、私の会社は比較的イベントが多い会社だと思います。4月は会社の創立記念日もあり、新卒社員が入社する時期でもあるため、半日ないし1日がかりで社内イベントを企画。会社の誕生日と新入社員の入社を祝い、社員間の交流を深めることにしています。また、夏には納涼会を催しますし、年末には顧客や取引先を招いての納会を実施します。いずれも最後は飲食の場があり、社員は交流を重ねながら、思い思いに時を過ごしています。社員の中には、ヤマ場にさしかかった仕事を抱えている人間もいますが、皆、やりくりしながら参加してくれ、そのことが風通しのよい社風、社員間の横のつながりを深めることにもつながっているのではないかと考えます。
 私が社員と1対1で会食することもあります。試用期間が終わった新入社員や入社から3年、5年、10年といった節目を迎えた社員と食事をともにし、今抱えている仕事のこと、将来の夢、会社に対する希望等、さまざまな話題について話をします。中には、社長会食=会社に文句をいう会ととらえて、いろいろな問題提起をしてくれる社員もいますが、そうした場は、経営者としての私にとってかけがえのない場になっています。なぜならば、社員の生の声が、会社づくりをする際の貴重な意見、アイデアになるからです。
 もちろん、社員の意見や提案、文句(?)を全て受け入れることばできませんし、多様な意見を前に、どのように方向づければいいかを悩むことも少なくありません。それでも社員の声を聞ける場を持つことは大切ですし、そうした場に付き合ってくれる社員がいることを幸せに思います。今後も、会食の場を社員の夢や思いを受け止める場として活用したいです。そのためにも、コロナ禍の早い収束を待ち望んでいます。

─他者の知見、経験を受け取れる大切な場─

 情報社会が加速する中で、コミュニケーションのあり様は大きく変化しています。実際、若い人たちの充実したコミュニケーション環境を羨ましく思うこともありますし、SNS 等を自在に操作する若者に嫉妬を覚えることもあります。
 しかしその一方で、もったいないな、大丈夫かなと思うこともあります。それは、視野が狭く、硬くなってしまっている人が少なくないということです。もちろん、これは若者に限った話ではなく、インターネットに過度に依存した情報収集は、どうしても自分の趣向に沿ったものが多くなりがちで、どんどん特定の情報の色に染まってしまうリスクを感じます。
 情報社会の進展は、効率的で便利な世の中を実現しました。しかし、一人の人間として触れる情報が偏ってしまうとどうなるか。ネットの書き込みでは、一面的な情報で一方的に批判や揶揄を繰り返すコメントがめだちますが、偏った情報のみに触れている人は、物事を判断する視点も狭く、考え方も硬くなってしまうように思います。
 インターネットがない時代、必要な情報を入手しようと思えば、本を読むか他者に聞くしか方法がありませんでした。時には、怒られるのを覚悟で先生や先輩に質問しに行ったわけですが、私はそうした行為の中に、インターネット時代にはない知的行為があったと思っています。それは、他者に聞く行為の中には、情報を得るだけでなく、その人が持つ知見や経験を受け取れるというメリットがあったということです。インターネットは確かに便利な情報手段ですが、そうした時代だからこそ、アナログ時代の情報入手で獲得できた他者の知見や経験を、別の手段で代替する必要があると感じます。
 他者と食べて飲む。飲食という行為は、他者と関わるためのコミュニケーション手段であると同時に、他者の知見・経験を疑似体験する行為でもあります。そのことで、人間関係がより深くなるだけでなく、自身の成長にもつながります。
 もちろん、アルハラといった言葉があるように、強制的に他者と飲食をする必要はありません。また上司のお説教ばかりを聞かされる飲み会なら、やんわりと断って自分の時間を大切にした方がましです。しかし、人間として向き合える形の飲食の場があるならば、積極的に活用した方がよいと思います。「最近の若者は・・・」と口癖になっている人、逆に「おじさん、おばさん、上司・先輩と話しても・・・」と思っている人は、是非、そうした偏見を捨ててみてください。世代の差はあっても同じ社会に生きる同じ人間である以上、7~8割方は共通の認識、価値観を持ち合わせているはずです。その上で互いの違いを発見できたらめっけもの。そうした違いを追体験しながら、新たな知見に結実させることができたなら、こんな素敵なことはないのではないかと考えます。

 コロナ禍、飲食業は大変な状況に直面しています。今、できることといえば、感染症対策やルールを守った上での飲食やテイクアウト、「さきめし」や「クラウドファンディング」の活用等に限られますが、「日常」を取り戻した暁には、これまで以上に大切な人と大切な時間を過ごしたいと思います。頑張れ飲食店、コロナに負けるな!