株式会社 アプレ コミュニケーションズ

NEXT Business & NEXT Persons
2021/02/04 更新

[第2回]そもそも「仕事」「働く」とはどういうことなんだろう?

─仕事とは生きるための手段。仕事=経済的な基盤である─

 前回、新型コロナ時代には、自分の仕事を見つめなおすことが大事だと書きました。そして、テレワークといった大きな環境変化が起きている今こそ、あらためて自分の仕事を棚卸しすべき時期だとも書きました。
 しかし、そもそも「みつめ直す」とは、また「棚卸しをする」とはどういうことなのか。仕事の本質がわからなければ、みつめ直すことも、棚卸しすることもできません。そこで今回は、あらためて仕事の本質について考えてみたいと思います。

 人はなぜ、仕事をするのか。10人いれば10通り、1,000人いれば1,000通りの答えが返ってくると思われます。しかし、どんな理由を挙げるにしろ、誰もが否定できない共通の要素があります。それは、仕事=生きるための糧を得る手段であること。日々の暮らしを営む経済基盤を得るために人は仕事をするということです。
 現在のような交換経済が成立していない時代、人は自分または家族のために狩猟を行い、山野にある木の実や植物を採取して暮らしていました。そして、知恵をつけた人類は、その場その場で食べ物を確保するだけでなく、自ら種を植えて穀物や野菜を栽培し、獲得した食糧を保存・蓄積するための技術を習得してきたのです。そして、より安全で豊かな暮らしを求め続けた人間は、生産量を増やすための道具を開発。機械化、情報化、AI化といった科学技術の発展によって、さまざまなモノやサービスを作り出してきたといえるでしょう。
 つまり、仕事とは日々の糧を得るための手段、また経済的基盤を拡充するために必須の要件であり、今日も多くの人が多くの時間を費やして経済活動を営んでいます。

─人はパンのみにて生くるに非ず。マズローの5段階欲求説と仕事の関係─

 一方、仕事は単に生活手段としてとらえられるわけではありません。「人はパンのみにて生くるに非ず」。これは、新訳聖書「マタイ伝第4章」におけるキリストの言葉(旧約聖書ではモーゼの言葉)ですが、人間は物質的(経済的)な欲求だけでなく、仕事に精神的な意味を見いだそうとします。「生きがい」「働きがい」といった言葉は、お金だけでなく仕事を通して得られる満足感を示す言葉です。また仕事をする理由に、「私は、○○○○のために働いている」といった使命感を挙げる人も少なくないでしょう。

 アメリカの心理学者であるアブラハム・マズローが唱えた「5段階欲求説」というものがあります。具体的には、人間には下記の5つの欲求があり、マズローは低次の欲求が満たされると、より高次の欲求が求めるようになり、すでに満たされている欲求を刺激しても自発的な行動を誘発しないと指摘しました。

 マズローの5段階欲求説を仕事に置き換えるなら、まずは生きるためにどんな仕事でもいいので得たい、とりあえず生きるための収入を得たいと考えるのが第1段階、「パン」に該当する部分です。しかし、生きるためには持続的に収入を得ることが重要であり、可能であれば職場環境も安全したものでありたい。そこから第2段階の欲求が生まれ、第1~2段階の欲求(=物理的欲求)が満たされると、「パン」以外のもの(=精神的欲求)を求めるようになります。
 そしてそこには、職場の人間関係や上司との関係といった外的要因によって左右される第3段階の欲求と、「存在を認められたい」「自分らしく働きたい」という内的な要因によって生まれる第4・第5の欲求が存在します。現在、退職理由に職場の人間関係やハラスメントを訴える人が増えていますが、それは第3の欲求から派生していると考えられます。これに対して他者と比較して優越感や劣等感を感じている人は、第4の欲求のウエイトが強い人。自分らしさを追求している人は、何かが足りなくて欲求しているというより、自分を成長させたい、他者に貢献したいという現状に付加価値を加えることが欲求の言動力になっているといえます。

 現在、コロナ禍によって第1、第2の欲求が満たされなくなっている人が増えていますが、こうした物質的な欲求に対しては、社会の仕組みによって不全を正していく必要があります(最近、第1、第2段階の欲求を満たさない人に対して、自己責任を求める傾向がありますが、そうした世界は弱肉強食の世界。他者の状況を慮れない、あるいは自分もその立場になりえることを想像できない人の価値観です)。
 一方、第3段階以降の欲求は、個々人が置かれている状況が影響するとともに、一人ひとりの価値観によってもウエイトが異なるものであり、棚卸しをする際には、自分の欲求のあり様、仕事についての価値観等を精査していくことが望まれます。

─仕事には価値が必要。「はたらく」意味を考える─

 マズローの5段階欲求説は、自分の棚卸しする際に、一つの尺度になりえる考え方です。しかし、自分の欲求だけを基準に棚卸しをするだけでは、一人よがりの棚卸しになってしまい、仕事の本質からズレていく可能性があります。
 なぜならば、仕事=価値創造であり、社会や他者に価値を提供できなければ、経済的基盤を支える金額に反映されないことが想定されるからです。

 よく言われることですが、「はたらく(働く)」は、「傍」を「楽」にさせる行為です。「楽」には、言葉通り「楽にさせる」という意味の他に、「楽しませる」という意味も含まれます。モノづくりの多くは、道具や機械を作ることで家事を含む仕事を楽にしてきました。また、サービスも人や物の動きを楽にしてきましたし、移動を楽にすることで遠い世界に旅をする等の楽しみを創り出すことに成功しました。さらに古今東西、さまざまな文化やスポーツ、音楽等が存在しますが、それらは人々を楽しませるとともに、自ら主体者になることで、自己実現欲求を満たすことにもつながっています。
 自分の仕事が「傍」(社会や他者)に「楽」を与えているか否か。仕事の棚卸しをする場合は、「傍」を意識し、自分がどんな価値を創造してきたかを整理していくことが大事です。その上で、自分が創造してきた価値が、今後も同じ形で提供していけるのかを考えてみる。また形を変える必要があるなら、どのような手段で価値づくりを行っていけばいいのかを考えてみることが大事でしょう。

 世界的な経営学者であるP・F・ドラッカーは、「企業の目的は、顧客の価値の創造である」と言いました。そして企業は、そこで働く人々によって構成されています。そうであるならば、「仕事の目的は、顧客の価値の創造」であり、「私は、社会や他者に対してどのような価値を生み出していけるのか」を考えていくことこそが、仕事の棚卸しの本質です。